ドSな兄と暮らしています
第4章 見つかったもの
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次の日は、休みだった。
私も兄ちゃんも休みだった。
昨日、真希さんから兄ちゃんのことを聞いていたとしても、私の心が軽くなっただけで、兄ちゃんの気持ちは読めない。
兄ちゃんは、少しずついつもと変わらない様子に戻っている気がするけれど、やっぱりあの日からは少し何かが違う。
でも何が違うのかは、ほんの少しの雰囲気の違いでしかわからなかった。
2人で、昼食を食べ終わった後だった。
今日は兄ちゃんが洗い物担当だったので、私は食後のコーヒーを入れていた。キッチンはコーヒーの匂いと、水道の水が流れる音で満ちていた。
コーヒーメーカーがドリップの終わりの音を立てたのと同時に、兄ちゃんが蛇口を捻って水を止めた。
静かな、緩やかな時が流れる。
私はマグカップを2つ並べると、1つは砂糖と牛乳を入れてから、もう1つはブラックのまま、とぽとぽとコーヒーを注いだ。
香りが強く立ち上って、大きく息を吸う。
ブラックの方を兄ちゃんに差し出すと、「ありがとう」と言って目の前の椅子に座った。
何となく、私もそうするのが自然な気がして、向かいに腰掛けて、カップに口をつけた。
不思議と、ここ1週間であった緊張やぎくしゃくとした空気を感じなかったからか、兄ちゃんが先に口を開いた。
「なぁ、汐夏。」
呼ばれて、ふと顔を上げると目が合った。
急に胸が締め付けられて、『この間のことは忘れて』と喉元まで出かけた言葉をコーヒーで押し戻す。あれは、私の本当の気持ちなんだから、無かったことにはしたくないと思っていた。
「考えたんだ。考えて、考えて、ずーっと思っていたことがある」