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「あ、ありがとう」

平静を装って返事をしたが、怖くて加恋の顔が見れない。

彼女の嫉妬深さと言ったら、深海のマンボウでさえ、マンホールの蓋になるくらいの圧力があるのだ。

加恋は、要件だけ告げると行ってしまった。私の背中越しの邪気が抜けていく気がした。

デスクに置かれた書類に目を向けると、付箋が貼ってある。


『昨日と同じスーツ！』


付箋が破れんばかりの筆圧で殴り書きしてある！

（これは、何とか鎮めないと……死人が出るぞ……）

おそらく、その死人は、私だ。



私は、背伸びをして、休憩をとるふりをして執務室を出た。

向かうのは非常階段だ。おそらく、私の動きを察した加恋が追ってくるはずだ。


釈明しなければ……



果たして、非常階段へ通じるドアが開き、可憐が踊り場へ出てきた。


風は吹いていないが、サスペンスドラマのラストの崖上にいるようで、まさに殺人現場にはふさわしいシチュエーションだと思った。


加恋のただでさえ鋭い目つきが怒気を含み、まさに鬼の形相となっている。

「どうしたんだ、加恋、何を怒ってるんだ？」

私は至って友好的に話しかけたが、相手は敵対する気が満々だったようだ。

いきなり私の襟首をつかむと、燃えたぎった怒りの瞳で私を睨みつけた。