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不倫研究サークル

第11章 リケジョ

「交際一日で早くも浮気されるのもしゃくですが、あまり拘束すると『重い女』と思われる、と参考書に書いてありました」

(いったい、どんな参考書なんだ?)

「あの、本当にバイトを紹介するだけなんです。 それにバイト先の社長にも用事があって、ついでなんです」

「分かりました。 今回は信用しましょう」

そう言うと、美栞は眼鏡を取って、食堂の紙ナプキンでフキフキし始めた。

初めて眼鏡を外した顔を見たのだが、眼鏡を通して見える瞳と違って柔らかい印象の大きな目をしている。

さしずめ、子リスといった感じだろうか。

「日向さんが眼鏡を取ったところ、初めて見ましたが、小動物みたいで可愛いんですね」

僕の何気ない一言に、美栞は大きな目を更に大きくして僕の方を見つめる。

少しポカンとした表情が、さらに可愛さを引き立てた。


「あ、あの……、日向さん?」

美栞は、眼鏡を拭く手を止めて固まっていた。いや、硬直していたというのが適切な表現だろう。

暫くして、ハッと我に返ったような仕草をするのだが、明らかにニヤケている。

「森岡……、モルモットのくせに、ナマイキです」

「す、みません」

俺はモルモットかよ? と思いつつ軽々しい言いように反省する。


「森岡、も、もう一度、言ってください……」

「え……と、日向さん、可愛いです」

美栞はフルフルと口の端を震わせていたかと思うと、急に眼鏡をかけなおし、その奥から冷たい瞳を光らせた。


「森岡は、やはりスケベですね」

(な、なんで、そなるんだーーー??)

「でも、ありがとう。 嬉しい」

美栞はニコリと笑うと、いつもは冷たく光る瞳から、柔らかい明かりを照らしてくれた。


(なんか、良く分からないけど……可愛い)

「えへへ……」

僕も、合わせて愛想笑いをした。

(リケジョ、案外、良いかも)




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