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不倫研究サークル

第15章 帰省

僕は、驚きの表情を隠すことができなかった。彼女が土門華子の担任だという事は、おそらく小梢に遺書と日記を渡したのは、美沙なのだろう、だから小梢の事も僕の事も知っているのだと思った。

「それじゃ、雪村さんに日記を渡したのも、奥さん、いや先生なんですね」


美紗はゆっくりと首を縦に振ると、直ぐに、今度は横に振った。

「教師は、あの事件の後に辞めたんです。 だから、もう先生ではありません」


土門華子の虐めによる自殺、その後に続いた小梢の自殺未遂、その責任の重さに心労が重なり、美紗は適応障害に陥り教師は辞めたのだと言う。


「酷い事件だった……」高取は重々しく口を開いた。

当時、まだ若手だった高取は土門華子の事件を担当、取材の過程で担任だった美紗と知り合い、その後結婚したのだという。

土門華子を襲った少年たちだが、主犯格の高校生は少年院へ送られたが、他の中学生だった男子は保護観察の後、何事もなかったかのように社会復帰、土門家への謝罪も有耶無耶だったという事だ。


「私は、あの時、教師になって三年目で経験も少なく、土門さんの虐めに対しても有効な手段を取れないでいました」

そう語る美紗の顔面は蒼白だった。


「もっと、私がしっかりしていれば、事件は起こらなかっかもしれないし、雪村さんも、あんなに苦しまなくて良かったんです」

「奥さん? 大丈夫ですか?」

美紗は、ブルブルと震えだし、呼吸が苦しそうだった。


「美紗、もう良いよ、後は俺が話すから」
「すまないね、森岡君、見苦しい所を見せてしまって」

「い、いえ」

「妻はね、未だに、あの時の事を思い出すと、過呼吸になって不安定になるんだ」

きっと、美沙のなかで、あの事件は終わっていないのだろう。小梢がそうであったように、決して忘れる事の出来ないものなのだ。


「妻は、当時、教育委員会からも保護者からも、そしてネット上でも酷いバッシングを受けてね」
「そこへ、雪村さんの自殺未遂だ。 もう限界だったんだよ」




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