テキストサイズ

不倫研究サークル

第15章 帰省

「ありがとうございます」

高取が車で土門華子の実家へと送ってくれた。

車の中からお辞儀をする美紗にも声をかける。


「先生は、できる限りの事をしました。 先生だけの責任じゃありません」
僕の『先生』という呼びかけに、美沙は大きく目を見開く。

「先生がいたから、先生のおかげで、僕は雪村さんと会えました。 彼女も懸命に生きて来れました」


美紗の瞳から、再び涙がこぼれる。


「雪村さんも、目標を見つけて、新しい人生を歩んでいます」
「そして……、僕も、なんだか目標ができそうです」

「それは、今日、こうして先生と出会えたからです」


「森岡君……」高取の目にも涙が滲む。


「今日は、本当に、ありがとうございました」

僕は、深々と頭を下げた。心の底から、今日、二人に会えたことに感謝したかった。


「見かけによらず、君は熱い男なんだな」高取は涙を拭いながら笑った。

「す、すみません、つい、生意気な事を言って……」

「いや、良いんだ。 こちらこそ、ありがとう」
「土門さんのお母さんには、連絡はしてあるから、直ぐに応対してくれると思う」


挨拶を交わした後、高取の車は走り去って行った。


僕は、ごく普通の門構えの一軒家の前で大きく深呼吸した。

インターフォンを鳴らす。


「はーい」女性の声が聞こえ、僕は名乗った。

「森岡圭と申します、鳥島日報の高取さんから連絡していただいたと思うのですが、華子さんの同級生でした」


直ぐに、ガチャリと玄関が開き、中年の女性が顔を出す。

「本当に……、本当に、森岡君なのね」土門華子の母は、口元を抑えながら、涙を流していた。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ