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秘蜜のバイト始めました

第1章 え? 聞いてませんが?

封筒を受け取り、私は中を確認する。中には、樋口一葉ではなく福沢諭吉がいた。

「あれ? 立花さん、1万円札が入ってます」

「あ、良いの良いの、怖がらせちゃったみたいだから、お詫びも込めて、取っておいて」


(やたー、ラッキー)という感情は表に出さず、私は丁寧に礼を言った。

「すみません、気を使っていただいて、ありがとうございます」


うんうん、と首を縦に振っている立花だが、イヤラシイ視線を感じる。

頭のてっぺんからつま先まで、ねっとりとした視線に身震する。


「いや~、相変わらず可愛い」

「それにしても、今日は落ち着いた格好しているね、この間会った時は、渋谷ギャルと言った印象だけどね」

(渋谷ギャルだなんて、いつの時代の表現だよ、古!)


「いや、大したものだ、それだけ変化付けられれば、女優としてやっていけるのにな~」

「いや、もったいない」



(どんなにおだてたって、アダルトビデオなんかに出てやるものか)

愛想笑いを浮かべながら、私はここから逃げ出すタイミングを見計らっていた。


「そうだ、せっかく来たんだから、撮影現場を見学しない?」
「なかなか見れるものじゃないよ、一般の人には」

1万円ももらって、直ぐに帰るのもやや気が引ける、それに撮影現場という響きに興味をそそられた。まるで映画の撮影現場のような響きだ。


「はあ、じゃあ、見学だけ……」




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