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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第7章 隠しきれないもの

しかし春斗は、俺の心の中に、しっかりと踏み込んできた。今しかないと言うように。

「それは違うよ、優。優が、怖いんでしょ?」

なんでもないような声で、核心をつかれて、息が止まる。ため息をつくかのように、ゆっくりと息を吐いた。
春斗は、俺の背中にぶつけるように、言葉を選んだ。

「例え咲が、母親を憎んでいたとしても、それがそのまま、優への憎しみになることはないだろ」

春斗の言葉は、こぼれそうな俺の心を掬っていた。無言で、言葉を受け止め続ける。

「言わずにずっと、このままって手もあるけれど。きっと、母親も咲を痛めつけた男も、もう二度と咲の前に現れないでしょ。咲が望まない限りは」

言わないなんて選択はできない。
咲の母親のことも、父親のことも教えた上で、今の家族3人を続けたかった。

「男の方は懲役5年。母親の方は親権剥奪、咲との面会は禁止。あいつ、俺が医者になったってきいて、病院乗り込んできたしな……」

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