テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第7章 隠しきれないもの

『白河咲』

俺は、その名前と体の傷を見た瞬間から、嫌な予感はしていた。

俺の両親は、俺が大学に入ってから離婚した。
酷い母親だった。
外で男を作って、取っかえ引っ変えしているのは、物心ついた時から薄々気づいていた。
俺はほとんど、父親に育てられた。

離婚する間際、母は妊娠していた。当然、外の男と出来てしまった子どもだろう。
父は、離婚すると決めたとき、母のお腹の中にいた子どもも保護しようとしていた。
確実に自分の子どもではないそのお腹の子を、引き取ってから離婚しようとしていた。

俺は、父がどうしてそこまでして、母のお腹の子を引き取ろうとしているのか、わからなかった。
最初は、勝手にさせればいいと思っていた。
父は俺に、こう言っていた。

「俺の子じゃないのはわかってるよ、でもあいつが産んで、まともに育てられるとは思えない。生まれたその瞬間から、酷い将来が待っているとわかっているなら。それなら、俺が保護して育てたい」

血が繋がっていない、まだ生まれてもいないその子を、父は想っていた。
だが、それは叶わなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ