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仔犬のすてっぷ

第26章 仔犬達のワルツ4 森川 VS 霧夜


「・・・貴方にコレが見えますかね?」

 懐に手を入れた霧夜は、そこから二本のダーツを取り出し、指の間に立てた状態のまま自分の顔の前にかざした。見た目には「ゴメン」と顔の前に手を出して謝っているその手にナイフが横に並んでいる感じだ。


「この二本のうち一本が私が初めて投げナイフで人を殺した時のモノ……
もう一本はさっきソコでリンゴを剥いて食べる時に使ったモノです。
 目の良い方なら、刃に筋弛緩剤が塗られているのが見てとれる筈なんですが……なにぶん、芯までリンゴを食べる私が沢山苦労して皮を剥きましたから…正直どちらも刺さる程度の切れ味しかありません。しかし、私が手を叩いてからナイフを投げると……
弛緩剤が塗られているナイフが必ず貴方に刺さります」

「・・・・・なんだ?苦労話か?それとも妙な自慢話か?
確かに見た目には判らんが、どちらに筋弛緩剤が塗ってあるにしても、俺が二本とも避ければ問題にはならないってレベルの問題だな」


 ヒュンヒュンと頭の上で棒を振り回してから棒を腰の裏に回し、カンフー映画とかのようなキメポーズをとった森川はふうっ……と小さなため息をついた。



「………んなぁあ、オッサン…しゃくしゃく…」
「なんだ?坊主…はむ、さくっ…しゃくっ…」

 こちらは敵味方、隔たりを超えて、戦いを置いて、仲良くリンゴを丸かじりしながらあちらの戦いを見ている蒼空とトーマスである。



「……あの霧夜って奴……はむ、しゃくっ…しゃくしゃくしゃく…んぐ…本当にリンゴを芯まで食おうとしてたんか?はむっ…しゃくっ」

「…いや。アイツは神経質でな。芯なんざ食わないはずだがね…がふ、しゃくっ……しゃくしゃくしゃく……」

「・・・なんか、変だ」
「…しゃく、んぐ……何が?」

「喋りの上手そうな霧夜の……
途中からセリフに意味の無い言葉が入ってんのに……アイツの気配は上がってて・・・
上手く言えないけど、すげぇ嫌な気配なんだよな……」


(……この坊主・・・俺の感じない“何か”を感じ取ってる…のか?)


トーマスから見れば、霧夜が追い詰められてきて思考が飛んでしまっているようにしか感じられなかった。


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