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仔犬のすてっぷ

第26章 仔犬達のワルツ4 森川 VS 霧夜


「……行きますよ」

 霧夜が森川に向かいダッシュして、逆手に持った左の大型ナイフを斬り付ける…が、その位は森川も身を少しだけずらしただけで避けて、すり抜け際の霧夜に棒を叩きつけた……はずだった。


「さっきのはただのハッタリか?なんの・・・」

避けたはずの森川の左の脇腹の革ジャンが切り裂かれ、同時に熱さに似た痛みが走る。


「……!!なにっ?!」

「言ったはずですよ?次は私の番だと・・・」

 森川は反射的に背後に回り込まれないよう、声の方へ向き直りながらバックステップする……が、霧夜がいる方向を向いた彼は、そちらを見た途端、あまりの光景に声をひっくり返してしまった。


「・・・な、なんだあ??!なんだあ〜?!」


 霧夜の輪郭がぼんやりし始めたかと思った途端、音も無く彼の左右にひとり、もうひとり……次々と霧夜が増えていく。


「新しい手品にしちゃあ、冗談きっついな、こりゃあ!」

「……どうですか?言い忘れてましたが、私の先祖は伊賀の出身でしてね。
代々伝わるモノを使えばささやかですがこういう事が出来ちゃうんですよ」

 会話のやり取りをしている最中も霧夜は増え続け、全部で9人が森川をグルリと取り囲む。


「いや〜…お前さんこそボリショイサーカス団とかに入って芸を披露すりゃあ、あっという間に人気者になれるんじやあ、ないかい?」


 龍節棍を三節棍に変化させ、左右の棒をヒュンヒュン音を立たせて回転させながら森川は正面にいる霧夜に苦笑いして見せた。


「……生憎とコレを見た方にはもれなく黄泉の国へのスペシャルチケットを手渡しする事になっていましてね。受け取らなかった方は今のところいないんですよ」

「・・・へえ?そうかい。じゃあ…俺が受け取らなかった人間第一号になってやるよッ!!」


 森川の量腕から2匹の黒蛇が一斉に霧夜に向かって飛び掛かった。

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