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仔犬のすてっぷ

第28章 仔犬達の・・・ 


僕の予想通り、一気に距離を詰めたトーマスからジャブが左、右と繰り出され、すぐに勢いに乗せた膝が蒼空を襲う。

 蒼空は僕のアドバイスを受けて左右のジャブを、わざと避けずに手のひらで叩き払って、次に来る右膝が当たらない位置へ……左へ避けながら右脚でローキックをトーマスの軸足に放った。

ーー ビシッ!

(…まだ駄目だ。今度は降ろした右を軸にしてミドルキックが来る!ソレを左に避ければ右脚にローキック、そこから後頭部へハイキックが狙える……)

「右が軸のミドルが!左に避け、ローと、ハイ!」

 蹴られた左脚を気にしないトーマスの左ミドルキックが蒼空の腹部を狙うが、左へ避けながら右の軸足へ放った彼の鋭いローキックが決まった瞬間、わずかにぐらついたトーマスへ、蒼空がハイキックを放った。

(コレは……当たらない?!ハイキックを誘って…トーマスの本命は倒れ込みながらの縦回転蹴り?!勢いがつく分、トーマスの回転蹴りの方が早く当たる……まずい!)

 頭に描いた二人の動きが……トーマスの重い縦回転の右脚が、蒼空の首筋に叩き込まれる・・・そのビジョンが僕の頭の中に浮かんだ。


「………駄目だ!当たっちゃうっ!!」

結果が判り、将棋やチェスで言う〈詰み〉の形になって、次の指示が出せない……



…勝てない。


そう思った時だった。


「ーー こなくそっ!避けるッ!!」

ハイキックを放つ瞬間、左軸足をぐいっ!と外側へ捻り、同時に左腕で素早くガードした蒼空は、重い蹴り下ろしをガードで斜め下へ誘導しながら軸足を上手くずらし……
踏ん張りが利かなくなった身体を、ハイキックの勢いを生かして前へずらす事に成功した。

 結果、二人とも床に倒れ込んだけど、大きなダメージを受けないで済んだ蒼空は一回転してすぐに立ち上がった。


「ふぅ〜…今のは、ヤバかった。喰らったら、多分動けなくなってたかも…な」

往なしたとはいえ、蹴りを受け流した左腕がしびれているみたいで……プラプラと左腕を振りながら蒼空は苦笑いしていた。



「・・・今のを、避けた、だと?」

ゆっくり立ち上がったトーマスは、僕と蒼空を交互に見てから首を傾げた。



「指示で動いていたとしても、今のは避けられないはず………なんだ?この違和感は・・・?!」




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