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私淫らに堕ちます

第8章 デート④

 暗い夜道を見上げると,うっすらと大きな観覧車が見える。観覧車の奥が海なので,背景も真っ暗だ。そのため,ぱっと見では,何が動いているのかさえ判別しにくい。

「先生。観覧車に乗りましょう。」

 先生の手をぎゅっと握り,観覧車の方へ引っ張っていく。先生の手は,小さく柔らかい。そして,温かい。なんだろう。手を握っているだけで,幸せな気持ちになれるのは。

 二人っきりで観覧車に乗る。そう考えるだけで,気が急いてしまう。

「ちょっと待って。そんなに急がなくても・・・・。」

 本当だ。何をそんなにはしゃいでいるんだろう。楽しい。こんなに楽しいのはいつ以来だろうか。

 立ち止まって,先生を振り返る。街頭の明かりが,優しく彼女の顔を照らす。やや息を荒くし,上目遣いにぼくを見つめてくる。

 その途端,涼しい秋の訪れを感じさせるような夜風が吹き,先生の艶のある髪が光に当たりながら揺れ,幻想的な風景を描き出していた。

「先生・・・。いや,栞。ぼくと付き合ってよ。」
なんら戸惑うことなく,口から素直な気持ちが飛び出た。年齢とか,教師と生徒とか,そんなことはどうでもいい。ただ,彼女とそばにいたい。

「・・・・・・・・・・・・。」
 ぼくの言葉を聞いて,視線を落とし,考え込むように俯いた。

しばらく沈黙の時間が過ぎた。

 その間,ぼくの心臓の鼓動が,これでもかと激しく打っている。一秒一秒が,まるで違う時の流れにいるように長い。

「返事は今はいいよ。必ず『付き合う』と言うことになるから。」

 ぼくは,その場での返事を諦めた。いや,この沈黙の時間が耐えられなかったのだ。無理に自信満々の顔を作り,再び観覧車へ向かった。

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