蜜と獄 〜甘く壊して〜
第3章 【秘密裏な罠と罰】
「堤さんのこと…悪く思わないで?あの言い方や態度はどうかと思うからそれとなく探り入れてみるけど、決してあなたを見捨てるような事はしないはずよ?一生懸命なところ知ってるから」
「すみません、フォローしてくださって嬉しいです……でも今日はちょっと頭冷やして来ます」
もう一度頭を下げて彼は出て行った。
私もすぐに指名予約の時間になり持ち場に戻る。
その後も相変わらず堤さんはピリピリムードだった。
「リリカちゃんまた来るよ」
「はい、待ってますね」
常連客さまと熱い抱擁を交わし帰りを見送る。
そんな日々が暫く続いた。
リリカにならなくていい日は書道家として筆を握る日もあれば新しい仕事の打ち合わせに追われていたりもした。
2週間後、結局あの時のボーイさんは辞めてしまったと聞いた。
フォローしきれなかった。
常に難しい顔をしている堤さんは気にもしていないみたいだ。
私が入ってからしかわからないけど、さほど人の入れ替わりが激しく感じた事はなかったように思う。
ボーイさんも顔見知りが多く、入れ替わりが激しいのはどちらかと言えばキャストの方だった。
他のボーイさんに辞めた子の事を聞いてみたが連絡がつかなくなったみたい。
「辞めます」と一言だけ電話で。
電話かけてきただけでもマシですよって言ってたけど。
仮面を取り私服に着替える。
裏口にタクシーを停めてあるので行こうとしたら喫煙ルームから出て来た堤さんとバッタリ会ってしまった。
頭を下げて「お先に失礼します」と言ったら振り返って腕を引いてくる。
「飯……行くか?」
数週間ぶりの会話。
少しやつれてる。
目の下にクマも出来て……酷い顔。
「いえ、この時間帯は何も食べないって決めてるので…」
「あぁ……そうだったな……」
「それよりちゃんと寝てくださいね?」
精一杯の笑顔で対応すると掴んだ手に力がこもる。
「タクシー待たせてるのですみません」
「………お疲れ様」
「お疲れ様でした」
何かを期待しちゃいけない。
その気にさせてもいけない。
ちゃんと一線引いた状態で居ないと
崩れ落ちるなんて一瞬だから。
私はその類の起承転結を良く知っている。