蜜と獄 〜甘く壊して〜
第1章 【業界未経験の需要】
「あっ……イクっ!」
「早過ぎるよ、バカ……」
「ハァハァ……すみません」
「ううん、ありがと」
乱れた服を戻し、何事もなかったかのように振る舞う。
「あ、リリカさんお疲れさまでした」と言ってくれるトモチンだけは薄々感じ取ってるみたいだけど決して詮索して来ないタイプだから好き。
次の出勤日は3日後。
もう少し増やせないかとオーナーが交渉してくるがやんわり断っている。
日に日に指名で埋まる私を稼ぎ頭にしたいのだろうけど身バレしたくないので極力抑えてるところ。
顔出しNGのキャストの中ではダントツでトップの座を走っている。
それも顔出ししてるキャストのトップ3に並ぶ勢いで。
だから何としてでも日数を増やすか顔出しするかの二択を迫られた。
「といっても、本業じゃないんですよ私」
「わかってるよ、でもその仮面を外したいと思うのが男の性じゃないか……」
ピッタリと身体のラインにフィットする真紅のロングドレスに身を包む私は、お店のマネージャーである堤さん(推定40代)にホテルの一室で口説かれている。
本来なら関係者以外は立ち入る事の出来ない祝賀パーティーにズカズカと乱入しては私をかっさらって此処まで連れて来られた。
職権乱用も良いところ。
「出勤日数はこれまで通りにして頂けませんか?」
飲んでいたワイングラスを置いて私の手を取る。
手の甲にキスを落としたら壁側へと立たされ頭上で手を押さえつけられた。
深いスリットから見える脚にも手が這う。
「そこを何とか宜しくお願いしますよ、神楽坂先生」
私を見据えてそう言うのはマネージャーが初めてだ。
大きな溜息を我慢して飲み込んだ。
「プライベートまで把握してどういうおつもりですか?オーナーの指示ですよね?話まとめて来いって言われたんですね」
グッと腰から引き寄せて鼻の頭がくっつくほどの距離まで詰められたら。
「いや、俺の判断だよ……やっぱお前、仮面してない方が良いな」
渋い声が鼓膜を通じて脳まで刺激してくる。
マネージャーとは入店してから今までずっと二人三脚で手取り足取り教えてもらった。
恩は人知れずある。