イラクサの棘
第3章 家族
「これでよしっと。」
「ただいまー
あ、智兄、招待状の準備できたんだ?」
「ああ、おかえり。
あきらぁ、ちゃんと手え洗えよ。」
「はーいとうちゃん」
「雅紀、代わりのお迎えありがとな。」
「なーに言ってんの。
晶は俺のかわいい甥っ子だよ。
あ、今日も晩飯うちで食べてく?」
「そうだなぁ、今夜は夜勤って言ってたし
買い出しも行ってねえんだよな」
「だろうと思った。
姉ちゃんってホント仕事人間だもんね
智兄ごめんね、」
雅紀の笑顔が一瞬だけ美也子の顔とダブって見えた。
俺には2人が似てる印象はあまり無いんだけど
やっぱり姉弟なんだな。
責任感が強くて面倒見の良かった美也子は
俺の一つ年上、弟の雅紀は彼女よりも5歳歳下で
いつも姉貴の後ろに隠れてた泣き虫っ子だった。
俺らはいわゆる幼馴染ってヤツ
俺はガキの頃からのんびりやでぼんやりだった。
あの頃の俺はなんでも美也子に世話してもらってた。
中学まではしっかり者の美也子が毎朝うちに
誘いに来てくれてたんだ。
智は、のんびりやさんだから
みやちゃんがいてくれて
ホント助かるわ、いつもありがとう
みやちゃんが、うちに嫁さんに来てくれたらな
家族ぐるみの付き合い
冗談混じりに飛び交う親同士の会話にも
あの頃はどこか他人事のように思っていた。
人に対してもあまり興味もなく、恋愛感情なんて
全く待ち合わせなくて
人間として未発達で欠落したような成長過程だった。