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イラクサの棘

第42章 勢揃い


眠たげな眼差しの芸術家は
愛しい潤の初恋相手で、元恋人同士の2人
潤のたおやかで恭順する
美しくしなやかな肉体を作り上げた男。



消し去りたい過去
拭えずにいた絶望感
諦め切っていた身体
凍てついて閉ざしていた心
それらの痛みと傷を内包したまま
日の当たない場所で、この先一人きりで
生きていくつもりだった潤。




「寒くないか?潤?」

敢えて潤の肩を優しく抱き寄せる。
濃密な恋人同士を見せ付けるように
潤を有頂天にさせてやる為なら
どんなにキザな仕草や、言葉も唱えてやる。
潤がすり減らした落胆の分だけ
俺の愛で補い、干からびた心と細胞に
乾くことのない愛を注ぎ続けてやる。


肩に頭をもたれかかる甘えた仕草
慌てて後ろをむいた大野さんにも
きっと俺が潤の髪にそっとキスする残像が
見えていた筈だ。
 

だが、予想に反して
いくつかの作品を観ていく中で
大野智の才能が本物だという事が
明確なものになり、俺の中のシナリオが
再び書き換えられる予感がした。



潤をここまで開花させた男
余すことなく愛したが故
実りかけた愛の果実を育てあげてる
最中にも関わらず
傲慢で自己都合的に一方的な決別を選んだ。


考え無しの
思考よりも先に動きだす本能の部分
理性や、利他的行動よりも
芸術家に多く見られる衝動的才能。 


大野智の脳や行動、いや稀有な才能
松本潤にとって
必要不可欠なものだったのだ。

感性の鋭さ
一見凡庸にも見える大野智を
表現するにはあまりに足りないそれら。

自分には皆無の芸術的才能だから
匂いで分かるんだよ。

この男はこれから
世界中が知る存在になる筈だってことが
はっきりと分かった。






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