イラクサの棘
第27章 引力
ぺこぺこ何度もお辞儀してくる
青年が、翔さんの隣の俺を見て
不思議そうに首を傾げて訊ねてきた。
「いえ…」
「ご、ごめんなさいっ!
ものすっごくきれいだから、モデルさんか
タレントさんなのかと思って
ホントに失礼しました。」
「じゃあ俺らはこれで
あきらー、今度はまーくんの手離すなよ!」
「うん、おにいちゃんも
おねえちゃんのおててちゃんと
つないであげてねぇー」
「じゃあ、潤行こう。」
「うん、さよなら」
振り返って手を振ると
またぺこぺこお辞儀をしててくれて
義理堅い青年のまーくんだった。
「あきらくんと、まーくんって
どういう関係なのかな?
親子じゃあなさそうだけど」
「知り合いの子とか甥っ子とかじゃね?」
「そうだね。
あ、翔さんって、4歳までオネショしてたんだ?」
「ばっ、違ぇよ!
あれは、あきらに話合わせやってたんだ。」
たくさんの人混みの中なのに
俺には翔さんしか見えなくて、
こんな雑踏の中で、2人だけの空間みたいに
思えるのがすごく不思議な感覚。
手をつないで歩くってこんなにも
あたたかくってしあわせな気持ちになるんだ。
人目を気にして
こっそり繋いだ手を離したり
人通りの少ない暗い道のりを選んだり
智と付き合ってた頃は
男同士で付き合うことへの
世間的な風当たりと
現実的な批判や差別的な視線
それらをまだ直視できない年齢だった。
「やばっ、そろそろ待ち合わせの時間だ。
急ぐぞ、潤っ!」
「ちょっと、待ってよ翔さんっ!」
繋いだ手を強く引っ張る翔さんの力
翔さんの生み出す引力に
ぐいぐい引っ張ってもらえる。
ねえ、翔さん
俺あなたにどんどん惹かれていってるよ
だから、今夜あなたと繋がりたい。