イラクサの棘
第5章 Journey
「フフフっ」
「ん?どうした?」
「だってさ、お昼のアレはさぁ」
思い出しても笑えてしまう。
先生の病室の中で、恭しく封筒から取り出されてた書類。
契約書の表紙は明朝体のフォントで
とても分厚く堅苦しい書類にみえた。
旅行の日程表や掛け捨て保険の契約書、その他の
様々な事項に約款などもこまかく丁寧に綴られている内容。
最後のページには署名と捺印の欄、その横には
同行者の翔さんの欄も有った。
※ ※ ※
「君たちが仲良くなってくれて良かった。
僕も安心して送り出せるよ。」
「先生、
お心遣いありがとうございます。
遠慮なく楽しませてもらいますね。」
「しっかり目通しておけよ。
後からのクレームは受付ねえぜ?」
「大丈夫、翔さんが受付てくれない時は
先生に文句言いつけるから。」
「じゃあ、私の代理の件も任せたからね。
無理にとは言わないが
預ける物だけはしっかり大野へ渡しておくれ。」
「はい、先生。」
「じゃあ、俺ら今夜の支度があるから
潤、待ち合わせの時間に遅れるなよ。」
「うん、大丈夫。
もうあらかた荷物もまとめてあるしね。」
「翔、くれぐれも潤のこと頼んだよ。」
「了解、任せとけって。
尽きないくらいのみやげ話持って帰らせてやるよ。」
自信たっぷりに親指を立てて
病室から去って行く翔さんの背中を見送りながら
咳き込んだ先生のベットのそばへ駆け寄る。