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イラクサの棘

第34章 訪問者




こっちに戻ってきてからも心の片隅では
潤の事ばかりを考えてた。
普段脳内では、どこか別のところにって
しまって置かなきゃって意識はしてたのに。

作品に取り組んでるときは
全ての思考回路を意図的に停止させて
真っ白になった思考に
1番先に浮かび上がるのが潤のこと。

潤なら…なんて言ってくれる?
潤なら、どんな風に感じるかな?


嫁の美也子、息子の晶、
そして頼りになる雅紀
いつだってまともに見ようとしてなかった。


「はぁ、とんだバカ野郎だよなぁ…」



ため息がてら、外の空気を吸いに近くの
自販機までやって来た。

尻ポケットの携帯が震えだす。

「潤っ!!
潤っ、おまっもう大丈夫なのか?
熱はどうなんだ?病院へは行ったのか?」

ダメだ、潤の声、潤の息遣い
鼓膜から侵入してくる吐息
それだけで潤でいっぱいになってしまう。




「あのさ、
今週の木曜にそっちにお邪魔してもいい?
先生からの預かりもの渡したいから。」

「ああ、いいぜ。来てくれよ!
俺は何時でも大丈夫!
潤、おまえの声元気そうだな。
良かった、めちゃくちゃ心配してたんだ」

「うん…すっかり元気だよ。
じゃあ午後にお邪魔するね。」

「潤、わざわざ遠くまできてくれて
ほんとありがとな。
潤、俺待ってるから。
潤に会えるの楽しみにしてるよ。」

「…じゃあね。」

ほんの五分足らず
それでも胸の高揚感は最高潮で
潤の好きなモンブランのケーキを
買って用意しとかなきゃとか考え始めてた。




そして雅紀が言ってた親友のことなんて
俺はすっかり忘れ去っていた。




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