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イラクサの棘

第40章 ルーツ

潤side


「ここ、どこ?」

「ここは、俺のルーツの場所。
親父とおふくろが毎年来てた別荘だよ。
おっ、ちょうど待っててくれてる。」


明日は智の個展会場を訪問する日

その前日に翔さんが俺と一緒に
立ち寄りたい場所だと言って連れて来てくれた。



「坊っちゃま!」

「久しぶりだな、じいや。
元気そうで良かったよ。
突然連絡して悪かったな。」

「いえいえ、滅相もございません。
こうして、この別荘で暮らし続けて
管理させていただき光栄です。
ささ、こちらへどうぞ。」

「ありがとう、じいや。
さあ、潤行こうか。」

「えっ、うん。あのお世話になります。」


恭しくとても丁寧に対応してくれる
翔さんがじいやと呼ぶ初老の老人が
洒落た洋館造りの建物の中に招き入れてくれる。



「どうぞ、お召し上がりください。」

「うん、美味いな。
じいやのいれた紅茶はやっぱりうまい。」

「それは、それは。
奥様も旦那さまもよくそう言って
年寄りを喜ばしてくださっておられました。」

「ほんとだ…すっごく美味しい。
これ、なんだろ?バラの香料かな?」

「いえいえ香料ではなく、バラの花びらを
煮詰めて作ったジャムでございます。
それをほんの少しだけいれておりまして
奥様も美味しいとおっしゃっておられました。」

「そうだったな。
でもよく分かったな、潤。」

「はい、なかなか一口召し上がって
お分かりいただけることはないですよ。
違いを理解していただき嬉しゅうございます。」

「いえ、そんな…」


「あの、たいへん失礼ですが、
潤様はお坊ちゃまの
ご友人でよろしゅうございますか?」

穏和な微笑みを絶やさないじいやさんが
おだやか口調で尋ねてくる。




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