イラクサの棘
第6章 ユメウツツ
「おまえは冷静なフリしてるけど
ホントはかなり情熱的なんだな。
アイルランドのある地方
冷たく凍てついた氷の大地の底に
ほんのわずかだけどマグマが噴き出してる
熱の塊みたいな場所があるんだ。
潤にも見せてやりたいよ。」
凍てついた氷の大地?
マグマの噴き出し?
そんなの
俺にはまるで理解できない知らない世界
「そんな簡単に…行けるわけない
…俺には、絶対にむり。そんな遠くの国の
景色なんてみれないし、行けやしない。」
「そうか?手を伸ばすだけだぞ?
潤が行きたいって思って俺に手を伸ばせば
いつだって俺が連れてってやるよ。」
国内旅行とはわけが違うじゃないか
だけど、
翔さんの自信に満ちた笑みに反論する気に
なれなくて、話を逸らすみたいに
しばらくの間、無言のまま視線を窓の外に向けていた。
「悪かったよ。
デリケートな話なのにあんな言い方して。」
「俺も、…睨みつけたりして、ごめんなさい」
「潤が悩んだり、苦しんだりしてきた事を
わかった風に言い返したりしてさ
ホントにごめん。」
「…じゃあ、ライラックケーキで。」
「ん?ライラック?ケーキ??」
「北海道ではね、ライラックって紫色の
かわいい小花が咲くんだ。そのケーキで許す。」
「紫色の花、ライラックのケーキか
仲直りのプレゼントね
おっし!!最高に絶品のやつ探してやる!」
「アハハ、期待してるからね。」
単なる思いつきで言い出した話題。
昨日、翔さんが紫色が俺に似合うって
言ってくれたから
単にそれだけ。
でも、いじけて拗ねてってたって
どうせ時間は過ぎてくんだ。
それなら、翔さんの言う通り
もっと踏み込んだ
縁を深めていくのも有りなんだと思える。
早速スマホでライラックケーキの情報を
集め始める翔さんを眺めながら、
この旅路の行き先の拡がりを楽しむことにした。
捨て去りたい過去に
いつまでも囚われつづけるより
現在
手に届くところに居る存在との
関係性で、
思いがけない化学反応が起こり得るなら
この先
生きてく意味が見つけられるのかも。
先生
あなたはもしかして
俺の思考になにかしらの
変化が起こるだろうって
目の前のこの人に
櫻井翔さんに出逢わせてくれたんですか?