イラクサの棘
第1章 プロローグ
パンフレットに見入って考え事をしていたら
冷房の冷え込みがきつく感じて身震いする。
「どうぞ、はいホットココア」
絶妙なタイミングで差し出されるカップからは
湯気が立ち込める優しい香り。
「熱いから気をつけて飲んでね。」
「あの、ありがとうございます。
でも、なんで?温かいのにしてくれたんですか?
俺、なにも言ってないのに。」
「ああ、さっきパンフレット見ながら
身体さすってたからさ。
もしかして寒いのかなって、違った??」
「いえ、無意識のうちに摩ってたんですね
今、身体がすごく冷えてることに気づいて
そしたら目の前に温かい飲み物があるから
驚いたんです」
「そっか、なら良かった。
ほら、冷めない内に飲んじゃいなよ。」
機微にするどくて、
さりげなく行動にうつせる目の前の人が
ずいぶん大人に見えてしまう。
ここ数年他人の視線から逃れるように
俯き加減で生きてきた自分との大きな違い
瞳のおおきな彼の声にもう少しだけ
耳を傾けてみたいと思いはじめていた。