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イラクサの棘

第1章 プロローグ


「すっごい、日本最大級のアクアリウムなんだ。
へえ、これは見てみたかも。」

つい漏らしてしまう言葉。

「じゃあコレを中心にしてもう一度
プランを練り直すからさ。
とりあえず俺と一緒に行くってことに決めない?」

「…でも、俺、やっぱり。
それに、先生を置いて…いいのかな。」

「いやいや、あの人からの依頼だから
そこはさ、しっかり気持ちを受け取っとかなきゃ。
それにある人に
代理で渡すモノもあるって聞いてるけど?」



「あっ、ええ。
けど…正直言うと、そこが引っかかってて。
俺は、その、あんまり
会いたくないって言うか、その…」



過去との決別
踏み出す一歩だと
促してくれた先生の言葉が脳内に木霊する。

「それなら尚の事とりあえず旅行は行く事に決めて
その相手に会うか会わないかは、向こうで
決めたらいいんじゃないかな?
どうしても会うが難しいなら、同僚ってことにして俺が
その相手に渡しても問題ないでしょ。
土壇場で松本くんの
具合が悪くなってしまいましたとか
言い訳ならいくらでも出来るしね?」


「そんなの、いいのかなぁ。」

「正直打ち明けるとさ、
もうさ、旅費は預かってるんだよね。
だから決断して貰わなきゃ俺としても
面目が立たないって言うかさ、
あの人の君への感謝であり日頃の労いって気持ちを
受け取ってあげて欲しいんだ。」

「そうなんですか。
えっとじゃあ、櫻井さんと先生って
どういった関係なんですか?
良ければ俺に教えてもらえませんか?」

「ああ、遠い親戚みたいなモノだよ。
俺は根無草みたいにあちこちふらふらするのが
好きだから、国内、海外いろいろ
回ったりしてて
最近はあんまり、顔出しもして無かったからさ。」



先生はある意味でミステリアスなところが
多くて、
秘書みたいな真似ごとをしてても
教授である一部の側面を知っているだけで
家族構成だの、私生活においては
ほとんど知らないことだらけだった。






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