イラクサの棘
第11章 牧場の朝
朝開いたばかりの可憐な花が
昼過ぎには項垂れて萎れてしまう様に
潤の表情が
虚にゆらぐ瞳の寂しげな笑顔になっていく。
抱き寄せたい衝動と鬩ぎ合う理性は
岡田先輩の提案してくれる言葉で
どうにか落ち着いた。
「2人とも、片付けに掃除ありがとうな。
話しがあるなら、上の蔵書室使うといい。
昼までゆっくりしててくれよ。」
無類の本好きでもある岡田先輩
3階にある蔵書室へと案内してくれた。
考えに耽りたい時
ゆっくり時間を忘れてて過ごせる
お気に入りの場所だそうだ。
「うわぁ、棚の上までびっしり。
先生の所も蔵書はすごいけど、岡田先輩も
すごいや。」
「ああ、古本屋巡りとかも好きだし海外でも、
本屋にはよく行くって言ってたしな。」
「ホントだ、英語の本もたくさんある
ここなら俺も一日中、
本の世界に浸っていられそう。」
気になる本の背表紙に触れて
手にとってみるを繰り返してる潤。
さっきの出来事を忘れてるかのように
すっかりこの空間に入り込んでいる。
とにかく伝えたんだ
焦らせる必要はないな
潤が答えを導き出すのを待っておこう。
窓際に立ち眼鏡を外して、
本の世界に没頭して夢中になる潤の横顔は
机の上に飾ってある彫刻品の女神よりも
神々しく見えた。