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イラクサの棘

第13章 波紋

智side


「……はい……うん、久しぶり…」

物静かな小声の潤
とまどいながらも電話に出てくれてるようだ。

何度も、何度もしつこいコールをしたら
やっとつながった。
着歴のこの番号はまだ覚えてるだろ?

いや、忘れる筈ない
××× ×××× 0830
俺の携帯は潤の誕生日が入った番号を選んだ。


「あのさ教授の代理で潤が
こっちに来てくれるんだろ?」

「…うん…」

「そっか、ホントありがとうな。」

「別に…旅行を兼ねてだから…」

「へへっ、久しぶりの潤の声きけて
なんか、…なんかさ、胸が詰まっちまって
上手く言葉が出ねぇ。」

「………そう…」

「いつくらいにこっちに来れそう?」

「たぶん、週末くらいに…なるかも。」

「そっか、休暇で旅行中だもんな
旅行は楽しんでるか?」

「うん…」




誰と一緒なんだ?
今おまえはどこに居るんだ?
潤おまえは今、どんなに美しくなってる?


潤に聞きたいことは山ほどあるのに
辿々しく途切れ途切れになる会話
語彙力が乏しい自分がマジで情け無い。



「はっきり決まったら…
こっちから…連絡するから…」



「ああ、じゃあまた、連絡くれよ?」

「うん…」

「潤、おまえは元気なのか?」

「うん」

「俺さ待ってるから。潤が来るの
ここに来てくれるの、俺待ってるからな!」

「………じゃあ…また…切るね…」


「潤っ!!じゅんっ!!」



出会った頃の俺は必死だった。
潤は初心でマジでめちゃくちゃ可愛くて
どうにか俺のことを好きになってもらいたくて、
とにかくなんでも自分から話かけて
潤を振り向かせようと必死だったんだ。
自分でも、あの時は情熱的だったと思う。

なのに、恋人として潤と付き合えるようになって
変わっちまったのは俺のほうだった。



ほんの数分にもみたない通話時間。


その短いあいだに
俺は潤の名前を何度も何度も呼んだけど
潤が俺の名前を呼ぶことは1度も無かった。




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