イラクサの棘
第13章 波紋
出逢った頃の潤はまだほんの子どもみたいで
どこか幼さが残る
あどけない少年そのものだった。
不慣れな案内のエスコートにも関わらず、
楽しそうに笑ったり、驚いたりしてくれてた。
最後に連れて行ったのは
俺の手掛けてる作品のある教室。
荒々しい姿の馬の
粘土細工に取り組んでたけど
なかなか躍動感がでずに、途中で作業が
止まってたヤツを見て潤が言った台詞。
これって
ユニコーンですか?
へ?いや、別に普通の馬だけど
俺にだけなのかな?
背中に翼が生えてるように見えるんです
すごいや、今にも飛び立つみたいだ!
ただの出来損ないで
潰してしまおうかと思ってた駄作を
きらきらした眼差しで見つめ続けてくれてた
分かった
じゃあ、これはユニコーンに作り直すな
遅れて提出した課題の作品のユニコーンは
ある教授の強い薦めで
コンクールに提出してみたら作品賞の中の
銀賞を受賞した。
目の前に舞い降りた天使だと思ってた潤は
幸運の女神だったのかもしれない
コンクールの表彰式の後
俺の絵のモデルになってくれないかと差し出した
右手を、
そっと包み込んでくれた潤の両手のぬくもりと
はにかむように愛らしく微笑む潤を
俺は今でも忘れていない。