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第16章 今田純子の不安

 K区役所の組織は区長、副区長、会計管理室、危機管理対策室、そして、12の部署から構成される。部になっていない部署は、それなりに、部とは仕事の質が異種というわけである。つまり、12部を統括する総務部長が主だった行政部門のリーダーとしての役目を担っている。天変地異などの災害がK区に発生したとき、陣頭指揮に立つ重要なポストが危機管理室長である。本来、このポストは総務部長が兼務することが慣習になっていた。ところが、今田純子の存在が浮上してきた。彼女は住民、職員のだれもが神と崇める逸材だ。部のリーダーとして人事を掌握する総務部長がその人気をないがしろにはできない。萬平部長もそのことは頭にあるから、別格の部署を置いて純子の人気を封じる必要が出てきた。若くしても、能力のある今田純子が総務部長に就くのではないか、と話題のない職員通しのあいさつ代わりになっている。
 彼女は42歳と若い。早くても50歳代の部長の中で、今田純子が行政部門のリーダーとなると、彼女が定年退職するまでの約20年間、総務部長のポストが今田純子に独占されてしまうことになる。そうなっては、組織のモチベーションが崩れる。彼女は若くして抜きん出る能力の持ち主で、だれもが一目を置く人材ではあるが、多勢に無勢だ。秀でたもの、出るくいは打たれる。現42歳の部長職の今田純子は、現総務部長から出るくいとみなされた。彼女の好感度を阻止するため、危機管理対策室長というポストと個室を与えた。案件が起きる時期も予測できない災害という怪物に対応させる。純子の能力を封じ込めさせる計画が萬平部長の一派によって画策された。人は権力を握ると、つかんだものを離したりしないものだ。己の利権のため、純子を窓際に座らせる計画だ。
 萬平部長席の前に今田純子が微笑んで直立していた。反対に萬平部長はスーツ姿の上から見えない装甲を着ているかのように身構えながら声を発した。
「きみには期待してるよ。きみの能力を天変地異の異変が生じたときこそ発揮してもらいたい。わしが兼任していたが、若いきみだから対応が大きく期待できる。これからのK区をきみの統率力、指導力によって牽引していってもらいたい。いずれはK区の首長となれば、区民の幸せは保障されたものと言える。頼んだよ、今田管理対策室長兼管理対策センター長…… きみにこの重要なポストで力を発揮していただきたい」

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