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トライアングルパートナー

第20章 落ち着かない残業

 そんな強い口調で言っていた純子は、突然、いつもの穏やかな女神のような顔になり、「また食事に誘って」と言って、何もなかったように、会議室を去っていった。その一連の流れが進一には現実的ではなかったように思えた。
 あの昼の1時間は仮想空間にいたのではないか。執務室に戻った慶子は、午後の時間、普通に業務をこなしていた。まるで何もなかったように時間は進むが、進一は慶子の口の中で、まとわりつく舌や唇、口内のあらゆる快感が今も思い出すことができた。進一の分身がパンツを押し上げる。それでも、今までの衝撃的な体験が現実とは思えない。進一は数メートルしか離れていない慶子の顔を見つめていると、彼女もときどき進一に視線を送ってきた。彼女は目が合うと、いつもの笑顔を作った。その様子を見ると、やはり、慶子とは昼休みに食事をしていただけのように思う。
 会議室から戻って、慶子と言葉をかわしていないことに気付いた。
「小山内さん、きみが純子を誘ったの?」
 進一の声がかすれた。
「係長はやはり奥さまを誘えなかったのですね?」
 慶子はそう言って悲しそうな顔をした。
「わたし、純子さまを愛しています。だから、係長も愛したいのです」
 慶子が進一の顔を見つめた。進一は純子を愛している、という言葉に驚いた。
「きみは純子と面識がなかったんだろ? だから、昼食を誘ってほしい、と言ったんだろ?」
 進一の問い掛けに慶子は数秒だけ間を開けた。
「わたし、小さい頃から何でも手に入れ、何不自由なく生活してきました。5年前、東京に来てからずっと何がほしいのか分からず、もんもんとしていました。そんな悩みを感じていたとき、大学のサークルで純子さまとお近づきになりました。彼女は何でも自分の力で欲しいものを手に入れていく方でした。とても尊敬しています。純子さまの生き方を見ていて、さらに悩みが増しました。彼女は夜にしか会ってくださらないからです。4年間、一度も日中に会うことはありませんでした。

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