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トライアングルパートナー

第25章 幸せに向かって

 式が終了すると、新入職員はそれぞれの配属先に直接、向かうことになっていた。慶子の手にした発令書と書かれた書類に、「地域住民課地域住民調整係主事を命じる」と記載されていた。出先機関の職場へ向かう人もいて、それぞれが新しい職場に希望を持って散っていった。慶子はホールを出ると、庁舎の玄関に向かって歩いた。1階エントランスには総合受付があり、窓口の分からない住民の案内をしている女性職員が応対していた。近くの壁面に大きなディスプレーがあり、そばには小型の人型ロボットが10台ほど立っていた。そのロボットに尋ねれば自分の行きたい窓口が分かるようだ。住民はこれに聞いて目的の部署に向かうのか、と慶子は思いながら、壁面のモニターにある組織の一覧表を眺めた。建物の階ごとに組織の名称が書かれていた。上から順番に見ていく。名称のすぐ後ろに階数と窓口番号が表示されていた。慶子の向かう地域住民調整係は「4階15番」と表示されていた。
 慶子は近くのエスカレータに乗り、4階で降りる。案内板に従って中廊下を進む。中廊下と執務スペースの間には腰ほどの高さのカウンターで仕切られていた。カウンターの上に、部署の名称が記載された案内板が置かれていた。番号順に進んでいくと、「4階15番 地域住民調整係」と記載された表示板にたどり着いた。廊下のどこにいても、執務室で働く職員の様子が間近に見渡せた。
「なんて開放的な職場なのでしょう」
 慶子は立ち止まって職員が機敏に動く様子を見て、自分もこうなりたい、と前向きに思った。
 慶子は立ち止まって自分がこれから仕事をすることになる場所を見つめた。奥の席で先程から顔を上げている男性には気が付いていた。ほとんどの職員が机のパソコンモニターを見ているか、電話で応対中、あるいは職員同士で話している、カウンターをはさみ住民と接客中の職員など、そういうフロアの雰囲気の中、一人だけ顔を上げて慶子の方を見ていた様子だ。慶子にはエスカレーターを降りてから歩いている間、ずっと、何かに監視されている気がしたが、それが何か、今、分かった気がした。
「えぇっ? この人、何なの? あたしをずっと見ていたのぉ?」

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