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トライアングルパートナー

第32章 純子の構想

 大和田純子は役所の新規採用者研修会で同席した今田進一という男に興味を持った。22年間、彼女は今まで男に性的な興味を持ったことなど皆無だった。あの人は優秀そうな人ね? 人徳の有りそうな人ね? とか、彼女なりに人の行動、所作から性格、能力などを分析し、興味を引くことはあったが、それ以上の感情が起きることはなかった。
 それなのに、どうしたことか、その日に限って、彼女の心臓の動きは純情ではない速度になっていた。中学生時代、短距離競走をしたとき、高校生時代、フルマラソンを完走させたとき、彼女は体を酷使したときと同じくらいの激しい胸の動きに戸惑った。
「どうしちゃったの、わたし、あの人に何を興奮しているの?」
 彼女なりに進一を分析した。顔は特徴のない普通の容姿だ。それなのに、第一印象で彼に引かれる要素は何? 彼女は目に見えない何かの力を進一に感じた。それが何なのかはさすがに判断がつかない。それを見極める必要がある。そう思ったとき、彼女は進一の心を自分の方に向けさせたい、とそう思ったとき、突然、周辺が暗くなり、天空の一点から光が純子に注がれると同時、しわがれた声が聞こえた。
「わたしは全知全能の神だ。だから、未来が読める。お前は人間であるにもかかわらず、住民から神のように呼ばれるようになるときが来る。これは神のわたしには由々しきことだ。神というわたしがいるのに、わたし以外に神と呼ばれるものがいるなどあってはならない。
 なぜなら、わたしが唯一無二の絶対神だからだ。
 お前は自分の人格を分離して生きる術を見つけた。それが神になるお前の巧みな生き方のようだ。しかし、お前が神になることはない。わたしが人格を統合してやるからだ。
 神の心を持つ昼の人格であるお前は、邪悪な夜の人格と統合する。夜の闇に巣食う嫉妬、そねみ、いさかい、争いなど地球上すべての邪悪な負の連鎖をたっぷりと持つ自堕落な人間に成り下がるのだ。そのとき、民から神のように奉られていた昼の人格・純子は闇の圧力により押しつぶされ消滅するだろう。お前の本性である野生の人間に成り下がるのだ。良いか、己の身分をわきまえるのだ。将来、神と呼ばれて生きることはない。そうと知ったら今を慎ましく生きることだ」

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