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トライアングルパートナー

第32章 純子の構想

 それから3日後、慶子が管理対策室長室にやってきた。慶子が危機管理対策室に向かって歩いてくる。慶子は室長室の前に座る植木係長を見て鼓動が早まった。慶子は植木と役所で会うのは夕食会以来、初めてだった。今田邸で植木とシャワールームですべてをさらし、愛し合ったことが幻のようである。慶子には50歳前後の男性と肉体的な関係を持つことなど考えもしない出来事だった。あの日にあった体験がすべて虚像のように感じる。
 しかし、体は覚えているようで、植木を見て慶子の体の芯が熱くなるのを感じた。心地よさを体は覚えている。心はありえない現実を受け入れられないのかも知れない。純子に言われるがままに成り行きで植木と体を合わせてしまったせいかもしれないと思った。
 思い返せば、あの日に始まったことではないと慶子は思い出す。京大に入学してからきょうまで、慶子にとっては何もかもが幻のようだ。すべて、純子に会ってから変わった。「今田純子を応援するグループ」に入部して慶子の人生のすべてが変わった。
 執務室と廊下にあるカウンター越しに見えた植木と目が合った慶子は軽く会釈した。慶子はそのまま進み植木の前に来て立ち止まった。
「やあ、お元気そうですね」
 植木がそう言いながらニッコリ笑った。慶子は二周りも年齢の違うこの人と寝たと思うと恥ずかしい思いがあった。この人は娘のよう年齢の女を抱いてどう感じたのだろう。慶子は尋ねたい気持ちだったが、そんな恥ずかしいことを聞けるわけがないと思った。植木が親しそうに若い女性に声を掛けたので周囲の職員の視線が慶子に向いた。植木がまずいと感じたと見え、「室長が先程からお待ちかねのようですから」と、大きめの声で植木が慶子に言った。慶子は植木に小さい声で「植木係長、お気づかい、感謝します」と言う。周囲の職員は二人が肉体関係にあることを想像もしていないだろう。しかし、あの場の流れとは言え、植木も拒否をしながら、結局は、若い娘を抱いたことに罪悪感みたいなものを覚えたのかもしれない。

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