テキストサイズ

トライアングルパートナー

第2章 管理職昇任試験

 採用6カ月後、労働組合青年部による歓迎パーティーが近所のホテルで開かれた。試用期間が終了し、晴れて正職員になった新人職員を先輩職員が祝福するという儀式である。保育士、心理士、警備員、用務員など、多様な人材が集まる職場である。かなりの人数になる。その席で、また、抽選による席決めが恒例のようで、進一がくじを引いた。すると、くじの係の女性が「私が開きます」と言って、進一のくじを取り上げた。ただ紙を開くだけなのに、と進一は不思議に思った。
「はい、55番、あちらです」
 開いたくじを手渡され、彼女が手を指し示す方向を見て歩き出す。彼はくじの番号の席を見つけ座る。持っていたくじを改めて見る。席と同じことを確認して座った。そのとき、少し会場がざわついた気がした。先程のくじを引くコーナーで、純子がくじを引いていた。6カ月もたつと、目立つ人間はできてくる。会場の人間は純子がどこに座るのか注目した。席の札を持った純子が進一の方向へ歩いてきた。彼は彼女を見つめ心臓が高鳴った。すると、彼女は進一の右隣に立った。
 彼女は彼を上から見下ろすと、見上げている進一の顔にほほ笑んだ。
「こんにちは今田さん、お久しぶりです。隣、失礼します」
 彼女は隣りに座ってから進一を見た。
「あなたって、随分ですわよね?」
 彼女は笑顔で言うと、突然、彼の顔をにらみつけるように見た。顔の表情とはかけ離れたような、穏やかな花の匂いがした。黙ったまま、彼女はしばらく彼の顔を見つめていた。彼はその横顔を見つめた。彼女が何に対し怒っているのか、彼は分からないで困惑し、言葉を返せないでいた。彼女が急に顔を彼に近づけた。
「今田さん、あたしが電話を差し上げたのにあれからなんで連絡をくださらなかったのですか?」
「だって、ごめんなさいって、断わりの電話だったのではないですか?」
「えっー なんですかそれ? あたし、お返事するのは、電話のほうが早くていいかなって思ったの……だから、電話でごめんなさいって言ったのだけど…… そばに同僚の人が来て、聞かれたくなくて、切ったんですよぉ……」
 彼女は彼をにらむように見つめていた。
「え? え? 何? それ?」
 彼女との交際がそこから始まった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ