トライアングルパートナー
第7章 小山内慶子
電話の相手は妻の純子からだ。
「今日、あたし、早く帰れるの…… あなたは残業とかする?」
彼女は彼の仕事に残業が発生しないことを知っているから、出掛けないで家にいてほしいときは、暗に電話してくる。
「ああ、それなら夕食を用意しておくよ」
彼はそれだけ、彼女に伝える。それだけで彼女は幸せになれることを彼は知っていた。
「うん、じゃ」
純子は職場内なのでプライベートな話題は極力、話さない。彼女は電話を切ると、小躍りしたい気分でいっぱいになった。小躍りしているのは、別の人格・潤子だが。純子は順子からうるさく言われている。潤子の気持ちを立てるように、と、そうしないと、昼間も見境がなく出現するようになり、迷惑を被るから困ると念を押されている。
「潤子の望み通り、今日の夜は進一の体をキープして上げたからいいでしょ?」
心中で純子は潤子にささやいた。
「純子って、忙しくしてるから最近、帰りが遅いでしょ? あたし、彼の体を食べられないから困るのよね。いい? きょうは退勤は速やかにするのよ」
「まったく、もう、分かってるわ、早く帰るわ。あなた、昼間は出ないという約束を忘れないでね」
「何を言ってるのよ。あんたが夜のあたしの時間まで、仕事でつぶすからでしょ」
「もうふたりともいい加減にして」
順子が二人の間に割って入る。
純子と潤子は出現する時間を取り決めている。昼間の時間は純子、夜間は潤子、その時間帯を守るように調整しているのが順子である。そんな3人の戦いが純子の脳内で起きていることは、進一には分からない。
「今日、あたし、早く帰れるの…… あなたは残業とかする?」
彼女は彼の仕事に残業が発生しないことを知っているから、出掛けないで家にいてほしいときは、暗に電話してくる。
「ああ、それなら夕食を用意しておくよ」
彼はそれだけ、彼女に伝える。それだけで彼女は幸せになれることを彼は知っていた。
「うん、じゃ」
純子は職場内なのでプライベートな話題は極力、話さない。彼女は電話を切ると、小躍りしたい気分でいっぱいになった。小躍りしているのは、別の人格・潤子だが。純子は順子からうるさく言われている。潤子の気持ちを立てるように、と、そうしないと、昼間も見境がなく出現するようになり、迷惑を被るから困ると念を押されている。
「潤子の望み通り、今日の夜は進一の体をキープして上げたからいいでしょ?」
心中で純子は潤子にささやいた。
「純子って、忙しくしてるから最近、帰りが遅いでしょ? あたし、彼の体を食べられないから困るのよね。いい? きょうは退勤は速やかにするのよ」
「まったく、もう、分かってるわ、早く帰るわ。あなた、昼間は出ないという約束を忘れないでね」
「何を言ってるのよ。あんたが夜のあたしの時間まで、仕事でつぶすからでしょ」
「もうふたりともいい加減にして」
順子が二人の間に割って入る。
純子と潤子は出現する時間を取り決めている。昼間の時間は純子、夜間は潤子、その時間帯を守るように調整しているのが順子である。そんな3人の戦いが純子の脳内で起きていることは、進一には分からない。