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トライアングルパートナー

第9章 小山内家

 ピピピピピピピ
 ワンルームマンションに住む小山内慶子の部屋で、甲高い音が鳴り響いた。自室のベッドで寝ていた小山内慶子は掛け布団から顔を出した。
「んーん 眠ーい。もう少し寝かせてぇー」
 単身住まい、だれに言うでもなく、心中でつぶやく小山内慶子はきょうも機嫌が悪い。隣で癒やしてくれるだれかがいない。自分は心の通う家族がほしいだけだ。家のためとかうんざりだ。
 ここは、5年前、地方から東京の名門女子大学に通学するために借りたマンションである。もちろん、資金は親から出してもらった。父親の出す条件は名門小山内家の婿養子を見つけること。東京でひとり暮らしを許す交換条件だ。慶子は今時名門とか家とか古いわ、と言っても、どうにもならない宿命だ。小山内当主は日本の「所得番付ベスト10」に入る経営のトップであり、慶子はその唯一の承継者として自分の立ち位置を幼い頃より教育された。
「あなたは小山内家の唯一の承継者なのですよ。自覚をしてください」
 何度、母親から念仏のように唱えられたことだろう。慶子は自由に生きたかった。小山内家にいると、息が詰まりそうだった。自由にいきたい、が慶子の願いだった。

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