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トライアングルパートナー

第9章 小山内家

 この人かも、ひょっとすると、と思いながらデートを繰り返してきたが、彼氏と呼べる相手は未だいない。今はすっかり無駄に時間を浪費している気がしてならない。去年は仕方ないとしても、今年はクリスマスを一人で過ごすなんてありえない。
「神様、あたしに愛をください。一つでいいのです……」
 彼女は神様に向かって手を合わせ祈りを捧げた。その祈りが神様に届いた。神様の使いはゲーム店にいた。8ピッドは邪神であったが、慶子から見ればゲーム店の店員である。慶子は神頼みはするが、本当に神がいるとは信じていない。そのうさん臭い店員が言うには、20年前に神様がお作りになられた神器、という。慶子には、ただのスマホにしか見えない。
 もちろん、慶子も神器などというそんな非科学的なことは信じていない。出会い系のマッチングアプリが組み込まれたスマホの類だろう、と思っていた。店員がそれを見透かしたように、ほくそ笑みながら慶子の顔を見つめて言う。
「ご覧の通り、ただの携帯電話のように見えます。実は、あえて、そのように作っています。つまり、神器と分からないよう電話に擬態させております。時代に合わせ、神器は形を変えてきました。2000年前はもちろん、矢でした。この矢で相手のハートを射止める。あなたも聞いたことがあるでしょ? 今は、携帯電話のゲームを介しつながるわけです。つまり、この神器を認識できるあなたは、まさに、神様に選ばれし貴重な方と言えます。
 まずは、この神器との出会いにおめでとうございます。本来はわたくし、恋のキューピット、佐々木慎之助が意中の相手に矢を引き当てるのが古来からの習わしではあります。
 と言うべきですが、昨今、天界でもサービス改革が行われ、今は出会いの切っ掛けはセルフサービスとなっております」
 そう言って、男性店員・慎之助は笑顔で説明する。笑うたび、金色の前歯が1本、キラリと光る。慶子はその輝きを見るたび、目がくらむ。

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