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トライアングルパートナー

第11章 慶子と慎之助

 ゴッドゲーム・店長佐々木慎之助はショーケースをクロスで丁寧に拭きながら来店者を待っている。
「メーメーメメ 迷ってしまって メーメーメメ 子羊さん 迷ってしまってメーメーメメ」
 彼は鼻歌をくちづさみつつ、人類への愛で満たされたあおい町を想像していた。老若男女が肩を組み、手をつなぎ、ハグする人々の顔は、幸福で満たされ、みんな笑顔だ。
「すっごく、いいねぇーぇーーーーーぇ」
 そう言い放った彼の顔も幸福で満たされた。彼は感極まって大きな声を出した。
「いいねえぇーーー」
 その言葉はあおい町の隅々に反響した。その衝撃波で、何軒かの家の窓ガラスが吹き飛んだ。そのとき、突然、シャー という音がした。玄関の自動ドアが開き、久しぶりの来客である。靴の足音が彼に向かって勢いよく近づいてきた。
「おおお、愛に飢えた子羊さんのおでましだ」
 心中でつぶやいた彼はショーケースを拭く作業を止め、足音のほうへ体を向けた。
「いらっしゃ……」
 慎之助は言葉を途中で失った。小山内慶子が鬼のような形相で彼の前に近づいてくる。立ち上がった慎之助の前に、顔を近づけた慶子がさらに顔を近づけてきた。
「あぁあのぉー」
 彼は慶子の勢いに圧倒されて後ろへ下がろうとしたが、背中のショーケースが逃げ場をふさいでいた。彼は怖い顔は苦手だ。慶子の顔を見てエロMエッサイ無さまに負けないくらい怖いよ、と彼は思った。
「ねえぇー あんたさぁー どうしてくれるのぉ? 1カ月も待ったのに、全然、ラブゲームなんてできるのぉ? もう、きょうは11月よぉ」

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