無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　こういうこともあるか、と予想したわけではないが、紅茶を買っておいた。慎之助は通常、お茶は飲まないし、食事もしないが、人間の嗜好品を味わうのも勉強のうちと思ってときどこ飲んでいた。
「まあ、紅茶でも飲んで落ち着きましょう」
　彼はそう言うと、ソファーから立ち上がって、紅茶を入れる準備を始めた。お湯を沸かし、紅茶のエキスを抽出し、カップに注ぐ。香りが部屋の中に漂った。
「どうぞ召し上がれ」
　彼は紅茶の入ったカップを慶子の前に差し出した。泣いていた慶子がカップを両手で受け取った。
「ありがとう……」
　慶子はカップに口をつけると少しずつ飲み込んでいく。
「おいしい……」
　やっと紅茶を飲んで気持ちが落ち着いたようだ。

　　*

　慎之助の設計通り、運命の出会いを作るのは難しい。運命と言える相手を見つけてくれるスマホとは言え、運命の相手が周囲にいないのではヒトメボレが機能を発揮し、愛の橋渡しなどしようがない。持ち主の性格、相手の好みなどに応じた運命の相手をサーチするためのプログラムを形成することもできない。ある程度、持ち主のプロフィールの改良が必要とされるようである。慶子は周囲に馴染めるような性格を形成させる必要だあるようだ。慶子のプロフィールを読んだが、慶子の生い立ちが特殊であるのかもしれない。小山内グループの令嬢というポジションにふさわしい相手を見つけるのは難しいのかもしれない。慶子の持ち合わせた愛に反応する相手の愛が周囲にないのだ。