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トライアングルパートナー

第12章 ゲームの対戦相手

「あぁーこれね、荷物の運搬のために作ったんだ。結構、スマホ1個は軽くても集まると重いからね。ここで売れるようになったら、支店を増やして、少しずつ、販売展開するつもりなんだ」
 慶子に階段ならあるよ、なんて、言ったら、はるかかなたの天に伸びる階段を見て、絶対、怖がられる。怖がられる、というより、お化け屋敷と絶叫され、ここから逃げていかれる。慎之助はそれだけは避けたかった。実際、エレベーターは運搬のため使っていたので自然に出た言い訳だ。慶子が狭いエレベーターの中を見回した。
「一応、あんたにもそういう野望があるんだ?」
「いや、そんな、野望なんて……」
 慎之助は人間界に降りてから、いや、店のショーウィンドウを見つめていた慶子を見てから、やたら自分が人間ぽくなった気がしていた。
 1カ月前、慎之助は初めて慶子を店のカウンターから窓越しに見た。慶子はどこか寂しそうな顔をしていた。突然、慎之助は衝動的に体が動いた。彼はヒトメボレをジャケットの内ポケットにしまっていたが、慶子はまだ持っていなかった。彼は店長室に入り、ペンで紙にリア・ラブゲームの宣伝文句を手書きし、店の玄関から慶子の所に走った。呼吸を整えると、慶子の隣に何気なく立って、壁に紙を張り出した。あのとき、慶子にこのゲームのことをきいてほしい、と願いながら貼った。一緒にこの子とゲームをしたいと心から思った。たくさんの人間にやってもらおうと思って作ったラブゲームのはずだったが、このときばかりは違った。それから今に至った。いよいよ、慶子とゲームができると思うと、慎之助の気持ちが高鳴った。
「へえー、Rってボタンはルーフ、つまり屋上があるの? ねえ、部屋に行く前に屋上に行きたいなぁー」

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