ナカまで愛でてトロトロに溶かして
第2章 【それぞれの葛藤】
受付で「タカラアキです」と名乗った時点でざわつかれた。
え、どうしよう、この空気、無理かも。
「大丈夫、心の中の耳、閉じてろ」
知らないふりしろって事よね。
タカラアキと名乗ったからには堂々とって言われても周りの目はかなり痛い。
視線が突き刺さる。
「柊ミコト先生はまだみたいだな」
隣で緊張する私を落ち着かせようと鍵山さんが言う。
「こっち」と編集部の幹部たちが居る元へ連れてってくださいました。
ダメだ、挨拶しても誰一人顔を覚えられない。
緊張MAX状態だとこうなるものなのか。
「いや〜やっとタカラアキ先生にお会い出来ました、綺麗な方だとは常々噂を聞いておりましたがこんなにお綺麗だとは…」
よくある決り文句なのかな。
続々と私の周りに集まられ名刺を頂いてしまった。
隣で紹介してくれる鍵山さんのフォローもあって何とか挨拶するのがやっとだ。
「たまには編集部にも顔出してくださいよ〜鍵山がこぞって行っちゃうから俺らお目にかかれなくて」
「あ……いや、すみません」
凄いグイグイくるな、口も上手くて圧倒される。
皆、同じ顔に見えるよ〜!
怒涛の挨拶も終わり、シャンパンを持ってきてくれた鍵山さんとホッと一息。
「そういやタカラアキ先生はかなりの人見知りでこういう場はいつも遠慮されるって言ってあったんだけど大丈夫そうだなって思われたかもな」
「あぁ、その通りですね、人見知りというかコミュ障に近いかも」と自虐気味に笑う。
漫画が全てだったのも事実だし。
実際、人と会うのも避けてた時期あったし。
「あ、あちらの紫色のドレスの方は早乙女椿先生だぞ」
「え、あの“誘惑の微熱”の!?」
同じTL漫画家も来てるのね。
ランキングも上位をキープしてる常連さんで追い抜いたり抜かれたりだったから名前は常に気に掛けてた。
あの人が早乙女椿先生。
思ったより年配の女性だった。
でも、男女の絡み合うシーンは情熱的で嫉妬しちゃうんだよなぁ。
タッチが上手過ぎて。
「あら、鍵山ちゃん久しぶりじゃないの〜」