
ほしとたいようの診察室
第2章 遠い記憶と健康診断
「……のんちゃん!」
右腕を掴まれる。
雨が、スローモーションになって……
走ろうとした体が、反動で引き寄せられた腕の中へ収まっていく。
揺らめいた体が、バランスを崩す。
その瞬間も、ひどくゆっくりに感じた。
「あわっ……!!」
頭ひとつ分大きい、その人の胸の中に、抱きとめられた。
瞬間的だったけれど、温かくてゆっくりとした鼓動が、たしかに伝わってきた。
消毒のような匂いの中に、微かに柔らかい柔軟剤の匂いが混ざっていて……なんだかすごく懐かしかった。
「おっと……危なかった」
……この声は……!!!
声の主がわかった瞬間に、心臓が飛び跳ねた。
慌てて離れようとしたわたしの体を、その人は離さなかった。
バランスを崩したわたしが、安定して立てる状態にしてから、ゆっくりと手を離す。
「……忘れちゃったかな?」
顔を覗き込まれて、まともに目を合わせることができないでいた。
……忘れるわけない。
