ほしとたいようの診察室
第8章 入院生活は続く
「最後は走って転んだんだよ、のんちゃん」
「え! ……そうだっけ?」
先生たちを困らせるほど元気だった、幼少期である。転んでいてもおかしくないか、と苦笑いする。
「本当に覚えてない?」
「……全然覚えてない」
笑いながら言うと、陽太先生もつられたように笑った。
「あの時はたしか……もう歩けないって言うから、花冠つけたのんちゃんを抱っこして病室まで運んだら、吹田先生に揶揄われて」
花冠に、お姫様だっこ……眩しい言葉に目がチカチカするような思いだった。
冗談めかした口調だったけど、きっと吹田先生に散々笑いのタネにされたんだろうと思うと気の毒だった。
「でも、陽太先生。花冠はすごく嬉しかったの、わたし覚えてます」
「そっか、それはよかった。作った甲斐があったなぁ」
陽太先生は穏やかな笑顔をわたしに向けて、わたしの頭をそっと撫でてくれた。その大きな手は、いつでもわたしに優しく触れてくれる。
いつまでも、陽太先生の前では子どもになってしまいそうだった。
わたしが初めてあげたプレゼント……それをずっとずっと、大事に取っておいてくれていたことが嬉しかった。
わたしはもう一度、その栞を見つめて、胸に抱いた。
これからもこの栞が、陽太先生の大事なものであり続けられるように。そんな願いを込めて。
……
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