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ほしとたいようの診察室

第3章 お仕事&お仕事

「き……! 聞きたくないっ!!!」

「こら、逃げない」

来た道を返そうと反対方向へ動こうとするわたしを、しっかりと捕まえたまま、陽太先生は厳しい顔を見せた。

「約束だったでしょ? 優先生と、吹田先生に言われてた。そうじゃない?」

陽太先生の思いがけない厳しい表情と声に、項垂れる。きっと陽太先生は、ここで手を離してはくれない。

「呼ばれるまで一緒に待つよ」

「でも……」

小さい声でつぶやいた。

「痛いこと……されたくないもん……」

思いがけずに幼い言葉でしか自分の気持ちを説明できずに、惨めに思った。もっともっと、この嫌な予感を表す言葉はいっぱいあるはずなのに、選ぶ余裕が自分にはない。

そんなわたしの小さな声に、陽太先生はきちんと向き合った。
わたしの両手を握って、しゃがみこむと、わたしの顔を覗き込んだ。

「嫌だよね。ごめんね」

そうやって、丁寧に謝られたわたしは、コクンと頷く。

「先生もついてるから、今日は一緒に頑張ろう?」

その言葉が、なによりも現実を突きつけてくる。頑張らなきゃいけないほど、わたしの体の中は、どこか悪くなっていることが、そしてそれを先生たちが知っていることが、わかってしまったのだった。

……今日は、逃げるには無理がある。

「星川のぞみさーん」

外来の看護師さんが、わたしの名前を呼んだ。

「ほら、行こうか」

わたしは陽太先生に手を引かれて、診察室に入ることとなった。

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