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魔法の玉

第1章 魔法の玉


 *


 ゴロゴロしながらマンガを夢中になって読んでいたら、帰ってきた父ちゃんが、ごっつい顔と体に似合わない、ヒソヒソとした小さい声で、


「あのな、息子よ。今まであんまり話さなかったけど、父ちゃん実は……夏祭りのために、毎年、魔法の玉を作ってるんだ」


 と、オレに話しかけてきた。


「えぇっ、何それーっ!」


 魔法の玉って、まるでゲームのアイテムみたいじゃん!

 それを、オレの父ちゃんが作ってるなんて、スッゲー! 友達に自慢できるぞ!

 マンガをほっぽりだして、ワクワクしながら、あぐらをかく父ちゃんに近づいた。
 

「いいか。魔法の玉ってのはな、ドーンと空に打ち上げると、多くの人間の感情を一気に引き出せるんだ」

「……へ? カンジョウ?」

「あぁ、そうだ」


 オレ、カンチョーなら知ってるぞ。いつも友達のケツに指をぶっ刺して遊んでるから。と言ったら、父ちゃんは今度は、ごっつい顔と体に似合う大きい声で、ワッハッハとゴーカイに笑った。


「お前にもそのうち分かると思うけどな。魔法の玉によって引き出せる感情は、人それぞれなんだ。
 あるヤツは、わーいと喜び。
 またあるヤツは、ジーンと感動し。
 苦い思い出があるヤツは、ズーンと落ち込み。
 嫌いなヤツは『うっせー!』と怒り。
 お前よりも小さい子供は、怖くてエーンと泣いて怯え。
 バカップルはロマンチックな気分に浸り、イチャイチャチュッチューってなったりするんだ。
 どうだ、スゲーだろ!」

「ぶっ……だははははっ!」


 全然意味がわからないけど、ごっつい父ちゃんが、いちいち変な顔をするのが面白れー!

 特に、最後の『イチャイチャチュッチュー』の顔が、ひょっとこみたいで、超ウケる!


「父ちゃんっ、今のもう一回やってー!」

「だからな、わーいと喜んだり、ジーンと感動したり、エーライヤッチャと踊ったり、」

「えーっ!? さっき、エーライヤッチャなんて言ってなかったじゃん!」

「そうだったか? いやだから、イエーイとハジャイだり、うっそーんと驚いたり……」


 オレはそのあとも、父ちゃんのいろんな顔芸を見て、ずーっと腹をかかえてゲラゲラ笑っていた。


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