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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 207 リビングルーム

 私は10階に到着し、1011号室の玄関ドアのインターホンを押した。

 ピンポーン…

 ガチャ…
 すると間髪を入れずに玄関ドアが開き、にこやかな笑顔のきよっぺが顔を出す。

「いらっしゃい、どうぞ…」
 その玄関ドアの開くタイミングは、私のエレベーター内到着を玄関ドアの前で待っていた…というタイミングであった。

「どうぞ」
 今夜で三日連チャンの来宅となる。
 そしてリビングへ通された。

「あっ」
 そして私はリビングを見た瞬間に、小さく、そんな驚きの声を上げてしまったのだ。

 なぜなら、昨日までこの約12畳のリビングルームには、小さな二人掛けのダイニングテーブルと対面の壁際にテレビがポツンとひとつ置いてあっただけの、そう、虚無的な空間といえるリビングルームであったのだが…
 そのリビングルームの中央に二人掛けのローソファーとリビングテーブルが置いてあり、そしてなんとそのテーブルの上に一輪挿しの花が飾られていたからである。

「ああ、コレね…
 今日の昼間、買ってきちゃったの…
 ほら、あまりにもガランとし過ぎちゃってたから…」
 と、きよっぺは少し照れ臭さそうに言ってきたのだ。

「あ、うん…」
 私はそう頷きながら、一輪挿しの花に目を向ける。

「あ、これね『モカラ』って言うんだって、お花屋さんに勧められてかわいいから買っちゃったの」
 更に恥ずかしそうに話してきた。

「うん、かわいいな」
 紫色のかわいい小さな花が鈴なり状に咲いている。

「ね、かわいいでしょう、花言葉はね『優美、気品』なんだって…」
 
 もう過去のトラウマ的な
『偽りの飾り』という思いが消えたという事なのか…
 そんな話しをしてくるきよっぺを見て、私はそう思っていた。

 すると…
「なんかね、前向きにいこうかなってさぁ」
 今度は少し高揚気味な感じになり、そう話してくる。

「前向き…か」

「うん、そう、前向きにね」
 そう応えてくるきよっぺの大きな瞳には、私の姿が映っているように感じられたのだ。

 そう、アナタが居れば…

 アナタが居てくれるなら…

 そしてその大きな瞳が、そう私に語り掛けてきている様にも感じられていた。

「ま、前向きに…か」




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