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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 126 杉山くんの明るさ

「な、なんかさぁ、このわたしをさぁ、夕飯に誘うなんてさぁ…」

 それは精一杯の虚勢心からの言葉であった…

「あ…いや…」
 だが杉山くんにはこんなわたしのたどたどしく、そして弱々しい口調からの虚勢心の言葉でも効いたようである。

「わたしを夕飯に誘うなんて…
 百万年…早いわよ…」

 そしてなんとかその杉山くんの一瞬の動揺を見逃さずに、そう反撃する事が出来た…
 だが、その口調は言葉ほど強くはなかった、いや、どちらかというと弱々しかった。

「あ、いや、そのぉ…」

 だが、そんなわたしの言葉を受け、杉山くんの目が少し揺れ、泳ぐ。

 それは杉山くんの中で、ちゃんとわたしに対する立場、パワーバランスは保たれている証拠といえるのだ…
 そしてわたしは、それが分かった瞬間に気持ちが持ち直せたのである。

「うふふ、ウソよ、嘘…
 誘ってくれてありがとう、嬉しいわ」
 ようやく虚勢心が薄らいで、素直に言葉が言えたのだ。


「えっ…」
 すると、そんなわたしの言葉に目を輝かせてくる。

「杉山くんの言う通り、予定は無いわよ…
 ううん、違うわ…
 さっきさぁ、急にキャンセルになっちゃったのよ…」

「ええっ、そんな佐々木部長との約束をキャンセルするなんて、どんな奴なんスかぁ」
 すると、一瞬でいつもの様子を取り戻してそう言ってきた。

 昨日、今日と一緒に営業に同行して感じたのだが、本当にこの明るさに心が軽くなる…
 そう、男女の違いはあるが、この明るさは越前屋朋美に共通する明るさに感じられるのだ。

 彼女もそうなのだが、一緒にいるとわたしの心も明るく、軽くなるような気になるのである…
 
「うふ、それは…秘密…かな」

 だからこそ、こんな時は…

 こんな夜は…

 一緒に居たくなる…

 いや、一緒に居て欲しいと思ったのだ。


「うわぁ、ヤバいっスぅ」
 すると、杉山くんは突然そう言ってきた。

「え、ヤバいって、なに?」

「いやぁ、今の部長の『秘密』って言い方が、ヤバいっス、大人の女の艶気っスよぉ…
 今、俺、ゾクッとしちゃいましたぁ」

 本当に杉山くんは明るくて楽しい…

「何をバカな事言ってんのよぉ」
 そんな彼に吊られて、わたしもすっかり元気になれた。

「いやマジっすよ、本当にゾクッとしたんスからぁ」





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