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シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 155 テンション…

「あのね、調べたら映画は5時からなの」
 わたしはそう伝えた。

「ま、いいじゃない…
 じゃあ、せっかく渋谷にいるんだからぁ、お買い物しましょうよぉ…」
 そんな嬉しい言葉を言ってくれる。

「うん、はい、ぜひっ」
「うーん、じゃあ、何処に行きますかぁ…」

 渋谷でのお買い物はいつ以来であろうか、いや、こうして一緒にお買い物をするという事自体がいつ以来であろうか…
 そう、それは高等部以来の事。

 約12年振り…
 そして映画も…
 改めてそんな過去を振り返ってしまう。

 だか…
 つい最近まではそれに対して、いや、友達がいなかったという事に対しては、寂しいとかの感情等は全く無かったのである。

 しかし今は、いや、美冴さんという存在を得てからは、そして友達宣言をしてからは、なぜだか、心が少しだけ揺らぎ、騒ついてくるのを感じてしまう…
 これもわたしが普通の女になったという、そして丸くなってきたという変化なのであろうか、すると、なぜだか、彼、大原浩一の存在感が浮かんできたのである。

 そうか、彼とも少し前に二人で銀座でお買い物を、スカートを買ってもらった事があったからなのか、それに彼とのお買い物、いや、男とのお買い物自体の経験もほぼ無かったからか…
 だから彼が浮かんできたのか?

「ねぇせっかくだからぁ109覗いちゃう?」
 そんな事を考え、想い浮かばせていたら美冴さんがそう声を掛けてきた。

「あ、え…」
 そしてハッと我に返る。

「さすがにぃ、109は若過ぎちゃうかなぁ」
 美冴さんのテンションが、いつもよりやや高い様な気がしていた。

「あ、うん、いえ、そんな事ないですよぉ、109に入りましょうか…
 それに暑いし…」
 わたしは慌ててそう言い繕う。

 そうなのだ…
 昔の事なんて…
 そして、彼の事なんで…
 どうでもいいんだ。

 今は、こうして大好きな、愛しい美冴さんと一緒にいるんだから…

「なんかぁ、わたしも久しぶりにテンションが上がっちゃってる気がするわぁ」

 ほら、そうなんだ…

 美冴さんだって、きっと…

 わたしと一緒が嬉しいんだ…

 いや、そうに決まっている…

 だって…

 だって…

『ゆかりさんに早く逢いたいの…』
 
 そう、美冴さんから電話をしてきてくれたのだから…




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