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シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 166 破顔の笑顔

「ふぅ、美味しかったぁ」
 食後のエスプレッソを飲みながら、ゆかりさんは満足そうに呟いた。

 確かに、本当に美味しかった…
 こんな本格的なフレンチのコース料理なんて数年ぶりでもあったから、余計に満足してしまう。

「本当に美味しかったわぁ…」
 わたしもそう呟く。

「でもあれですよね…
 あの『クレソンのサラダ』って運ばれたてきた時には、思わず笑いそうになっっちゃいましたよねぇ…」

「うん、そうよね、わたしも思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えたわぁ」
 
 そうなのだ…
 映画で『鴨肉とクレソンの鍋』を二度程食した場面があって、二人同時にそれが食べたい…
 と、ハモったくらいであったから、余計にその『クレソンのサラダ』に反応してしまったのである。

「冬になったら作ってみようかなぁ」
 と、わたしが呟くと…
「あ、ぜひ、食べさせてください」
 笑いながらゆかりさんは言ってきた。

「うん、あ、いや、これからお料理教えてあげるわよ」

「え、ま、マジっすかぁ、ぜひ教えてほしいっす」
 ゆかりさんはそんな言葉の割には、真剣な面持ちで応えてくる。

「あら、うふ、やだわぁ、その口調…
 あれ、ほらぁ、あ、あの営業の杉山くんみたい…」
 
「あ、そうなんですよぉ、この三日間の休出でずっと一緒だったもんだからぁ、移っちゃったのかもぉ」
 と、ゆかりさんはなんと舌を出して照れ笑いをしてきたのだ。

「うん、教えてあげるからさぁ…
 何か一品でも得意な料理覚えて、彼に食べさせてあげればいいんじゃないの」

「うわっ、きぁゃっ、それ凄くいいっすねぇ」
 すると更にハイテンションに、そして、そう、まるで破顔といえる様な満面の笑みを浮かべてきたのである。

 え…

 ゆかりさんがこんな顔するなんて…

 こんな笑顔、初めて見たわ…
 
 わたしは内心、思わず驚いてしまう。

 あっ、これも、彼、大原浩一本部長の愛情のせいなのかなぁ…
 ゆかりさんを見ながらそう感じ、思ったのだ。

 あの『鉄の女』だった彼女がこんなに愛らしい笑顔を見せてくる…
 彼の愛情の深さを強く実感していた。

 それに、わたしも彼にかなり、いや、彼の優しさ、そして愛情に救われた…
 そう、あの『黒い女』からの完全脱却は彼のお陰であるといえる。

 そして…

 


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