テキストサイズ

シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 167 バー

 それに、わたしも彼に、かなり、いや、彼の優しさ、そして愛情に救われたのだ…
 そう、あの『黒い女』からの完全脱却は、彼のお陰であるといえる。

 そして…

 それは、その事実は、絶対に、誰にも、いや、この目の前に微笑みを浮かべながらわたしを見ているゆかりさんにだけには…
 死んでも云えない。

 少し心が疼き、罪悪感が湧きつつあった…

 いくら紆余曲折な流れがあったとはいえ、いや、あれは、おそらく亡きゆうじの最後の不思議な力の導きだった…
 と、そうに違いないとは思っているのだが、ゆかりさんの最愛の彼、大原浩一に抱かれてしまったのだ。

 それも、3回も…
 心が罪悪感に覆わてしまう。

「…………」
 そんな事を一瞬の内に思い浮かべていると…
「ねぇ美冴さん、バーにいきませんか」
 と、誘ってきたのである。

「え…バーに…」

「あ、はい、隣に素敵なバーがあるの、飲み直しましょうよ」
 と、なぜかゆかりさんは、やや、潤んだ感じの目でそう誘ってきた。

「う、うん…」
 一瞬だけ、なんとなくその潤んだ感じの目が気になったのだが、とりあえずはその誘いを受けて、バーに移動する。

「あらぁ、ここも素敵ね…」
 そんなゆかりさんの目のことなど忘れてしまうくらい、移動したバーのカウンターからの夜景もレストラン同様にかなり素敵であり、一瞬の内にそんな罪悪感が消え、そして、心が蕩けてしまいそうになった。

「さっきのレストランは都庁方面向きだったけど…」
 そう、このバーは南方面に向いているのだ。

「そうですね…」

「あ、飛行機…」
 羽田空港からの夜間便であろう飛行機が遠くの夜空に飛んで行くのが見える。

「て…ことは、ゆかりさんのマンションの方面に向いているのね」

「あ、そう…みたいですね」

 そして眼下に拡がる大都会の煌びやかな夜景…

 女性なら、ううん、いや、男女問わずに心が揺れ、蕩けてしまうに違いない。

「ゆかりさんはここに来た事あるんだ?」

「は、はい、前に彼と…」

「ふーん、いいなぁ…」
 本当に羨ましいと思っていた。

 大好きな彼と、愛する男と、こんな素敵な夜景を見ながら、一緒に食事をしたり、お酒を飲んだり…
 きっと、心もカラダも蕩けてしまったに違いない。

 そしてわたし達はカウンターに座わった。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ