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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 14 秘書への経緯(4)

「あ、いや、まず、その山崎のおじさまってのは?
 親戚か何かなのか?」
 また訳が分からなくなり、やや、混乱気味の彼、大原浩一新常務はそう訊いてくる。

「あら、うふ、いえ、全くの他人ですわよ…」

「え、じゃ、なんで…」

 そう、普通はおじさまなんて呼ばない…
 そう呼ぶのは本当に親戚か、よほどの親しい間柄だけだ。

「え…と、そもそもが山崎のおじさまは、わたしのおじいさまと、え、あ、おじいさまのお知り合いで…」

「え、律子くんのおじいさま?」

「は、はい、わたしの父親の父…
 おじいさまですわ…」

「え、おじいちゃん?…」

「はい、そうです…
 だからそんな縁があって、あの銀座のクラブも紹介してもらって…」

「あ、うん…」
 そこまで説明したのだが、どうやら余計に分からなくなったみたいである。


 それはそうであろう…

 だって今まで彼の前で
『山崎のおじさま』なんて、呼んだ事は無かったはずだから…

 それにこのわたしと山崎のおじさまとの関係は、銀座クラブの『ヘーラー』のママと、あとは…
 松本副社長しか知らない秘密にしてあったから。



「うん、い、いや、いい、今夜直接、山崎専務に訊くわ…」

 多分、その方が分かり易いであろう…

「はい、そうかもですね」
 と、わたしは笑顔で頷きなごらそう言った。

「とにかく、ちゃんとした、正式な秘書ですので…
 これからよろしくお願いします…」

 そう、これだけは本当の本気であり、決して勘違いだけはして欲しくはない重要なことなのである…
 だからわたしは目力を込めてそう言って、彼の手を握る。

 マジメに、本気なんだ…と。


「あ、あぁ、う、うん…」

 だが、彼にその想いが伝わったのかはわからない…
 そんな曖昧な声音を漏らしてくる。


 仕方ない…

 少しだけ内幕を教えておこうか…

「え…と、実は、もうお盆休みの前から決まっていたんですの」
 
「え、そ、そうなのか?」

「はい…」
 わたしは、少しでも彼の心を落ち着かせようと…
 意識してにこやかに頷く。

「そ、そうなんだ…
 お盆休み前からなのか…」

 本当は違う…
 その時点では山崎のおじさまからの打診だけであった。




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