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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 141 8月19日午前1時35分の着信

 ブー、ブー、ブー、ブー……



「…………ん………ぁ……ぁぁ………………」

 突然…

 携帯電話のバイブレーションの震動音が響き…
 わたしの意識を還す。


 ふと枕元の時計に目を向けると、深夜1時半を過ぎていた…
 それは佐々木ゆかりからの着信であった。


 ブー、ブー、ブー、ブー…

「んん、ふぅぅ…」

 そして私はとりあえず頭を起こし、電話を取ろうと腕を伸ばす…


「あっ」


 その瞬間であった…

 私の横脇から、一瞬早く律子の白い腕がサッと伸び…

 その着信鳴動している携帯電話を掴み…

 ブー、ブー……ガチャ…………

 電話を切ってしまったのだ。

「…………………」

 あ…

 なんとそのまま…
 携帯電話の電源を切ってしまったのである。

「…………………」

 そして律子は黙って私の顔を見つめ…

 いや…

 ダメ…

 このベッドに一緒にいる時は…

 もうダメ…

 その美しい目で…

 強い眼差しで…

 そう、私に語り掛けてきた…

「あ………う、うん…」

 そうであった…

 この前の夜、いや、深夜…

 ゆかりから掛かってきた電話を取ろうとした腕を掴まれてた事があった…

 いや、あったばかりであった…

 そしてその時に…

 その時の律子の哀しそうな目を見て自らの心を戒めた筈なのに…


「…………………」
 律子は黙って私の目を見つめてくる。

 あの夜に…

 あの時に…

 私は…

 私は、己の間抜けさに…

 そしてその自分の心の慢心に…

 自身を卑下し、反省した筈だったのに…

 なんて間抜けなんだ…

「あ、いや…そ、その…」

 すまない…

 その言葉が出なかった。


「あ……ご、ごめんなさい…ただ…

 ただ…

 ただ、嫌だったの…」

 その律子の目は見た事も無い…

 今まで見た事も無い…

 哀しそうな目で私を見つめながら…

 そう呟いた…

「あ、い、いや…」

 いや、私が悪い…

 無神経過ぎだ…

 だが…

 これも言葉に出せない…

 いや、出せなかった。

 しかし…

 その彼女の想いの重さ、辛さは…

 電源を切ったという行為が全て物語っている。

 ああ…

 私はまた…

 やらかしてしまった…





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